参議院選挙が終わった直後から、「外国人の強制送還が増えている」という噂がネット上で話題になっています。果たして本当に選挙の影響なのでしょうか?実際に統計を調べてみると、その背景には 2023年に成立した入管法改正 が大きく関わっていることが分かります。
1. 選挙後に強制送還が増えたという噂
選挙のたびに移民や難民問題は争点として取り上げられるため、「選挙結果で方針が急に変わったのでは?」という印象を持つ人も少なくありません。2025年の参議院選挙後にも同様の噂が広がりました。
しかし、実際には 選挙直後に法制度が変更された事実はありません。ではなぜ“送還が増えた”ように見えるのでしょうか。
2. カギは2023年の入管法改正
2023年6月に成立し、2024年6月10日に全面施行された「入管難民法改正」が大きな転換点です。
ポイントは次のとおりです:
- 難民申請を3回以上繰り返しても原則送還を停止しない
- 「送還忌避罪」の新設:退去命令に従わない場合は刑事罰対象
- 監理措置制度の拡充:収容に代わる地域での保証人制度を整備
従来は難民申請を繰り返すことで長期間滞在できるケースが多かったのですが、この仕組みが大きく変わりました。
3. データで見る改正前後の変化
法務省の統計をもとにすると、次のような動きが見られます。
- 退去強制手続対象者数
- 2022年:10,300人
- 2023年:18,198人(前年比+76.7%)
- 2024年:18,908人(前年比+3.9%)
- 実際に送還された人数
- 2023年:8,024人
- 2024年:7,698人(前年比−4.1%)
つまり「対象者の数は大幅に増えた」一方で、「実際の送還執行数は横ばい〜やや減少」という結果になっています。
4. なぜ「増えた」と感じられるのか
- ニュースになりやすいケースが増えた(クルド人の強制送還など)
- 制度改正が2024年中盤から施行され、実際に適用される場面が増えてきた
- 選挙直後というタイミングが重なり、「選挙のせいで増えた」と誤解されやすかった
この3つが重なったことで、あたかも「選挙後すぐに強制送還が増えた」ように見えたわけです。
5. 入管法改正の経緯
この改正に至るまでには、長い議論と紆余曲折がありました。
- 長期収容問題と難民申請の乱用
- 難民申請を繰り返すことで送還が事実上停止され、長期収容や居座りが発生していた。
- 名古屋入管での死亡事件(2021年)
- スリランカ人女性ウィシュマさんが収容中に死亡。入管の対応に批判が集中し、制度の人権性が問われた。
- 2021年改正案は廃案
- 政府が提出した改正案は「人権軽視」として野党や市民団体が強く反発し、廃案となった。
- 2023年に再提出 → 成立
- 人権保護の仕組み(監理措置制度など)を加えて再提出。
- 与党(自民・公明)に加え、維新・国民民主が賛成し、2023年6月に成立。
- 2024年6月全面施行
- 準備期間を経て施行。現在、数字や事例として効果が出始めている。
6. 今後の見通し
入管庁は「送還実効性の確保」を方針に掲げており、改正法の運用はこれからさらに強化される可能性があります。統計数値にも、その効果がよりはっきりと表れてくるでしょう。
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