はじめに
日本の合計特殊出生率(TFR)は2024年に1.15まで低下し、出生数は68.6万人と過去最少を更新しました。少子化は社会保障や地域経済の持続性を揺るがす大問題です。では、出生率を押し上げるにはどんな政策を最優先すべきなのでしょうか。ここでは、海外の成功事例も踏まえながら、日本が取り組むべき施策と課題を整理します。
1. 若年層の結婚・出産ハードルを下げる
施策の方向性
- 若者の雇用安定化(非正規から正規への転換、最低賃金の底上げ)
- ファミリー向け住宅の家賃補助、持家購入への初期費用支援
- 都市部での広めの間取り供給促進
日本の課題
- 都市部の住宅費の高さと狭さ
- 若年所得の伸び悩み
- 結婚初期の経済的不安
2. 0〜2歳児保育の量と質の拡充
施策の方向性
- 保育所・認定こども園の整備を前倒し
- 保育士の処遇改善、配置基準の柔軟化
- 病児・延長保育の拡大、小規模施設や空き家活用
日本の課題
- 保育士不足による定員制限
- 都市部での待機児童(特に1〜2歳)残存
- 財源・自治体格差
3. 父親の育児参加を当たり前にする
施策の方向性
- 男性育休の実効性を高め、出生直後の手取り10割相当給付を周知
- 復職後の短時間勤務に賃金補填を導入
- 企業ごとの男性育休取得率を公表し、KPI化
日本の課題
- 長時間労働文化、管理職意識の遅れ
- 中小企業での代替要員確保の困難
- 育休取得が昇進・評価に影響する不安
4. 児童手当の拡充とサービス連携
施策の方向性
- 児童手当を高校生まで支給、第3子は3万円へ増額
- 所得制限撤廃で「中間層」も支援
- 現金給付と同時に保育・働き方・住まい支援をパッケージ化
日本の課題
- 地方自治体の事務負担と財政余力
- 「給付だけで子どもを増やすのは難しい」という実証的課題
- サービスと連動した体感改善の不足
5. 家族の多様化を支援する
施策の方向性
- 婚外子や未婚カップルへの支援拡大
- 選択的夫婦別姓の導入
- 税制・社会保障で「結婚以外の家族形態」もカバー
日本の課題
- 婚外子比率が極端に低く(数%程度)、結婚に依存した制度設計
- 民法・戸籍制度の改正が必要
- 企業や社会の意識改革に時間がかかる
補助的に効く施策
- 不妊治療(ART)のアクセス改善:地域格差縮小、待機時間短縮
- 長時間労働の是正と柔軟な働き方の拡大
- 出生後数年の「育児コスト」を軽減する現物サービス拡充
まとめ
出生率を押し上げるには「お金を配るだけ」では不十分です。
- 雇用と住宅で結婚・出産を後押し
- 保育の量と質を抜本拡充
- 父親の時間確保を制度で保証
- 給付とサービスをパッケージ化
- 家族の多様性を支える仕組み整備
この5本柱を同時並行で実行することが必要です。
日本はすでに児童手当拡充や男性育休給付強化などを進めていますが、「住宅」「働き方」「多様な家族支援」など残された課題も多いです。北欧型の包括的支援を参考に、制度と文化をセットで変えることが、最終的に出生率改善につながる近道といえるでしょう。
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