走行距離税とは
走行距離税(Road User Charge, Mileage-based User Fee)とは、自動車の走行距離に応じて課税する制度である。
従来のガソリン税や軽油引取税は燃料購入時に課税されるが、EV(電気自動車)の普及や燃費性能の改善によって燃料消費量は減少傾向にある。
その結果、道路整備・維持に必要な財源の減少が懸念され、新たな財源確保策として走行距離課税が注目されている。
海外の導入事例
ニュージーランド
ニュージーランドでは「Road User Charges(RUC)」を導入している。
ガソリン車は燃料購入時にガソリン税を負担するが、軽油車やディーゼル車はガソリン税の対象外であるため、走行距離に基づき課税される。
これは燃料税と走行距離税の役割分担型といえる。徴収された財源は道路維持費に充てられており、特別会計的な色合いが強い。
アメリカ(オレゴン州)
アメリカでは複数の州が走行距離課金の実証を進めているが、オレゴン州の「OReGO」が代表例である。
車両に専用デバイスを装着し、1マイルごとに課金する仕組みで、従来のガソリン税を支払う代わりに走行距離課金を選択する。
ここではガソリン税の代替型として制度設計されており、徴収した税収は道路財源に充てられる。
ヨーロッパ(ドイツ・スイス)
ドイツやスイスでは、大型トラックなど商用車を対象に、高速道路利用料として距離課金を実施している。
これはガソリン税に加えて課される追加型であり、重量車による道路損耗分を反映する仕組みとなっている。
収入は道路維持やインフラ投資に使われており、基本的に特定財源(特別会計)として運用されている。
ガソリン税との関係
走行距離税は導入形態によって次の3つに分類できる。
- 代替型(米・オレゴン州)… ガソリン税の代わりに距離課金を選択
- 分担型(ニュージーランド)… ガソリン車は燃料課税、軽油車は距離課金
- 追加型(ドイツ・スイス)… ガソリン税に上乗せして大型車に課金
どの方式を採用するかで「公平性」や「負担感」が大きく変わる。
特別会計か一般会計か
日本ではかつてガソリン税などが「道路特定財源」として特別会計に入っていたが、2009年以降は一般財源化された。
そのため「道路整備のために取っているはずの税金が、実際には他用途にも使われているのではないか」という不信感が国民に広がっている。
海外の事例を見ると、ニュージーランドや欧州では基本的に道路維持費に充てられる「特別会計型」が中心であり、国民もその点を納得している。
一方、日本で走行距離税を導入する場合、再び特別会計に位置づけるのか、それとも一般財源に組み入れるのかは大きな論点となる。
仮に一般財源化されれば、「二重課税」「財源の流用」といった批判を受ける可能性は高い。
日本への示唆
- EV普及による燃料税収減を補う手段として走行距離税は有力。
- ただし「ガソリン税との関係」「都市部と地方の負担差」「プライバシー管理」「会計区分(特別会計か一般財源か)」といった課題を整理する必要がある。
- 特に会計区分を明確にし、国民に「この税は確実に道路維持に使われる」と説明できなければ、導入の正当性は揺らぐ。
結論
走行距離税は、EV時代における新しい道路財源モデルとして各国で試行されている。
海外では基本的に特別会計型で運用され、道路整備に直結することで国民の理解を得ている。
日本が導入する場合、ガソリン税との関係整理に加え、「一般財源化」ではなく「道路特定財源」として位置づけるかどうかが最大の焦点となるだろう。
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